望遠レンズは自分の中であまり興味のある分野ではなく、今回ご紹介するFUJINON XF90mmレンズにつきましても、発表はされましたが「ふーん」程度にしか思っておりませんでした。
しかし、何気に仕様をみていたら、MTFが凄い!ということに気が付き。。
ついでにMTFとはなんぞや、ということも調べてみたので、聞きかじった知識を語ってみようかな、と思いました。
FUJINON XF90mmについて
amazon – FUJIFILM 大口径短焦点フジノンレンズ XF90mmF2 R LM WR
2015年7月16日発売予定のレンズです。
まだプロの作例しか上がっておりませんが、見ていただくと分かる通り、ボケがきれいな一方、ピントが合った場所がきれいに解像している、というのが分かるかと思います。
もっとも、中望遠域で単焦点レンズであれば、レンズ設計などしやすいということもあり、良いレンズがたくさんあるという事実もございます。
とはいえ、このMTF曲線は期待が出来るぞ!という内容なのであえてご紹介した次第でございます。
XF90mmレンズの仕様をご覧ください。
MTF曲線
MTF自身は、レンズ性能を評価する指標の1つでして、どれだけコントラストを再現できるかを表現したものです。
コントラストとは、明るいところと暗いところの差をどこまで明確に表現できるか、ということです。
白と黒の縞模様を実際にレンズを通して見て、それがどれだけ忠実に再現できているか、をグラフで表している、と言っても良いかと思います。
では、このMTF曲線をどのように見ていけばよいのか、上のレンズ仕様ページ記載のグラフを元に説明したいと思います。
グラフの説明
グラフが2つありまして、それぞれ「空間周波数 15本/mm」と「空間周波数 45本/mm」と書いてあります。
「空間周波数」自体は、1mmの間に何本線を引いているか、を意味しており、空間周波数 15本/mmであれば、15本の黒線が1mmの間に描かれている、というものです。
グラフの縦軸は、0~1であらわされていますが、1であれば15本完璧に表現できている、0であればボケボケで全く表現できていない、という事を意味する、いわゆる指標です。
グラフの横軸は、レンズ中心からの距離です。
0だとレンズの中心点。14.2mmだとレンズの隅の方です。
※APS-Cセンサー専用レンズなので、14.2mm止まりですが、135フィルム(フルサイズセンサー)用レンズであれば、これが23mmまであります。
一般的に、中心ほど性能は良く、隅に行けばいくほどレンズの性能は落ちていきます。
なので、右肩下がりのグラフになるのが一般的です。
1つのグラフ上に線が2つありますが、これは「同心円上に描かれた線」「放射状に描かれた線」、どちらに対して測定したか、を示すものです。
グラフから性能を読み解く
グラフの見方が分かったところで本題です。
それが写りにどのように反映されるのか?これについて説明したいと思います。
空間周波数 15本/mm(本数の少ない方)
コントラストの良し悪しです。
よく「ヌケが良い」という表現を聞くことがあると思いますが、要はもやっとした描写になるかどうか、です。
空間周波数 45本/mm(本数の多い方)
どれだけ解像しているか、です。
1mmの間に45本も線があるわけですから、とっても細い線が密集している、というのはイメージできるかと思います。
それをきちんと白と黒で分離しているか、を示すわけです。
線の傾き
右肩下がりであれば、中心は解像しているけど、周辺に行くほどぼやけた描写になる、ということです。
右の方に行ってもそれほど傾かなければ、中心から隅の方までしっかり解像する、ということです。
マクロレンズなどは細部まできっちり表現することが求められる分野なので、右肩さがりになりにくい傾向であるレンズが多いと思います。
線の重なり具合
同一グラフ上の2本の線。1つは同心円方向、もう1つは放射線状の解像度を示すものですが。
この線が重なっていれば、同心円上でも放射状でもどちらでも同じ解像度になる→ぼかした時も同じボケ量になる→ボケが丸い、ということが言えます。
つまり、ボケがきれいになだらかに表現される、ということになります。
よくある「グルグルボケ」「二重線ボケ」みたいなことが起きにくい、という事が言えるかもしれません(必ずそうなる、というわけではありません)。
その他
MTF曲線を見る時に、ほかに注意すべき内容を挙げたいと思います。
F値による変化
このMTF曲線はF値(絞り値)によって変化します。
普通はF値を大きくすると(絞りを絞ると)、画質(コントラスト)が改善しますので、MTF曲線を載せる場合は、ふつう一番条件のシビアな開放F値で測定したものを載せます。
良心的なメーカーさんであれば、様々なF値で測った結果を載せてくれる場合もございます。
ズームレンズは焦点距離でMTF曲線も変わります
ズームレンズの場合はもっと複雑です。
焦点距離が変わることでレンズの性能は変化していきます。
XF55-200mmを例に出しましょう。
XF55-200mm のMTF特性曲線(本家サイトから抜粋)
この例だと「テレ端」と「ワイド端」で分けて表記されております。
ワイド端の方がより解像している、というのが分かりますので、テレ端の200mmではなく、ワイド端に55mmで撮影した方がよりクッキリ写る、と推測できます。
別の例です。
同じ焦点距離でも、レンズの違いによってMTF値は変わるという例です。
XF18-55mmです。
XF55-200mm のMTF特性曲線(本家サイトから抜粋)
上と同じく、「テレ端」と「ワイド端」で分けて表記されておりますが、今回はテレ端の55mmに着目しましょう。
XF18-55mmのテレ端と、XF55-200mmのワイド端を見比べると、共に55mmではありますが、MTF曲線(空間周波数45本/mm)では、XF55-200mmの方が解像する、というのが分かるかと思います。
メーカーさんによって基準値が異なります
富士フイルムさんでは、空間周波数を15本/mmと45本/mmの2種類で表していますが、NIKONさんでは、10mm/本と30mm/本で表現しています。空間周波数が違えば性能は変わりますので、同じ空間周波数で比較しないと意味がありません。
画面中心からの距離は、富士フイルムさんでは14.2mmまでしか出していませんが、NIKONさんでは23mmまで出しています。
これはどのセンサーサイズまで対応しているか、に因ります。
中心からの距離が遠くなればなるほど一般的に性能が落ちますが、最長距離が違う点を無視して、NIKONさんは隅の方が悪い、という比較をしてはいけませんよ、という事です。
FUJINON XF90mmの性能をMTFで考察する
さて、肝心のFUJINON XF90mmです。
改めて、XF90mmレンズの仕様をご覧ください。
XF90mm のMTF特性曲線(本家サイトから抜粋)
まずぱっとわかるのは。
線の重なり具合が半端ない!ということです。
M(放射方向)とS(同心円方向)で、唯一重ならないのが、空間周波数15本/mmのグラフで、中心から12mm以上離れた箇所だけで、それ以外はほぼピッタリ!と言ってもよいものになっています。
プロの作例を見ていただいてもわかるかと思いますが、どの写真もボケがとてもきれいです。
次に気づくのが、レンズの隅でも解像している、という点です。
ギリギリまで行かないと線が右に下がらないのです。
画面全体にわたってしっかりと解像する、というのが推測できるわけです。
レンズの性能は他の要因もあります
ということで、MTF曲線についてざっくりと説明したつもりですが。
レンズの性能というのは、これだけでは語れない、という点をご理解下さい。
よくあるのは、以下のものです。
・歪曲収差と呼ばれる、「糸巻型」「タル型」と呼ばれるような画面の歪み。当然歪みが無い方が良いレンズです。
・色収差による色の再現性(色が青や赤に分離したり、色が混ざってしっかりした色が出ない、というのは良くないレンズ)
・周辺減光(隅の方が暗くなる現象。もっともこれはレンズだけではなく、イメージセンサーの性能にも因りますが)
こういったものを示す指標はもちろんあるはずですが、全部の指標を提示しているメーカーさんは残念ながらありません。
メーカーさんによって測定方法など異なるためでしょうね。
MTFといった共通化した指標があるのがむしろ珍しいのではないでしょうか。
トータルで判断する場合、作例など見てレンズの性能や特性などを判断するしかないのが実情かと思います。
しかし、性能を客観的に測る指標が提示されているのはとてもありがたいことです。
レンズはお値段も張りますし、なんとなく選ぶよりは少しでもこういった情報を活用して、買った後に悔いの無いようにしたいですね。